俺はコーラならなんでもいい方だぜ
「heyトミ?調子はどうなんた?すまねぇが、コーラが飲みてぇんだ」
相棒の230(フミオ)は俺にそう言ったが、まだ休憩の時間ではない。 .
「ヨゥメン、例えあんたが凄腕の殺し屋だとしても、今はそのペンキを塗ることに集中するんだな」
俺が抱えてる現場はどれも戦場だ。
どれだけクールに仕上げたところで、金が残らなければ意味がない。
その意味では、230には死んでもペンキを塗り続けてもらうしかない。
「damm!お前の死因は俺が決めてやってもいいんだぜ?」
「俺とやり合うだって?どっちにしろコーラが必要ってことだな」
こいつを怒らせてもメリットがない。ここは素直にコーラを買ってくるべきだろう。
俺は車をだし、近くのショップへ出向いた。
「whats up?イカしたネックレスだな。この店に、コーラがあるって聞いて来たんだけど、よかったら見せてくれないか?」
俺は強面の店員に聞いた。
「小僧、おめぇさんみてぇなマヌケ面を追い払うのが俺の日課でね、ちょっと付き合ってくれるか?」
そう言って俺に向けた殺虫スプレーの引き金には指がかかっていた。
「オイちょっとまってくれよ!そりゃないぜ!俺がコソ泥にでも見えたか!?俺はトミイエ塗装だ!ただ、コーラがほしいだけなんだ、金ならある!たのむから、撃たないでくれ」
「おめぇさん、ただもんじゃねぇな。そのへんの小僧とは目がちげぇ。おめぇさん、ひょっとして本物か?…しかたねぇ、持っていきな」
オレを本物と見破った店員は俺にコーラを投げた。
「恩に着るよ!必ずまた来るぜ!ありがとよ!」
俺は大急ぎで現場に戻り、230にコーラを渡した。
満面の笑みを浮かべてお礼を言うもんだと思っていた。
だが目の前の現実は悪い方向に歩く癖がある。
「てめぇ、オレをなめてんのか?こいつはコーラじゃねぇ、ペプシだ。俺はたしかにコーラといった、ああそうだ、コーラって言ったはずだ。なのにてめぇはペプシを買ってきやがった。この意味がわかるか?」
「おい230、なにをそんなに怒って…ま、まさかこれ、コーラじゃねぇのかよ、まじかよ!」
「うるせぇ!知っててオレをはめやがったな!このろくでなしが!てめぇみてぇなカス野郎に生きる資格なんかねぇ!ぶちこんでやる!」
取り出したスプレーガンのセーフティーを外し、俺に向けた。
「待ってくれよ!本当に知らなかったんだ!というかどっちでもいいと思ったんだ!230がそんなこと気にするとは思ってなかった!たのむ!撃つな!」
「だまれ!俺はおまえを信じてた、信じてたんだぞ!いつだって一緒にやってきたおまえを仲間だと信じたんだ!このうらぎりものがー!」
「やめろー!」
びしゃぁぁぁ
「…は?」
スプレーガンから出た赤い塗料は俺ではなく、倒れた230の頭蓋を染め、
力なく倒れ込んだ。
「へへっ、知ってた…さ…おまえが、俺をハメたんじゃ…ないって…」
「おいまじかよ230!頭から赤い塗料が…なんでだよ!」
「おれは…お前にコーラの、ラベルの色を…教えてやりたくて…ぐふっ!みろ、この赤い色…これが、コカ・コーラの…ラベル…」
「もういい!しゃべるな!くそっ、止まれよ、止まってくれよ!」
スプレーガンから出続ける赤い塗料を止めようとする俺に、230が言った。
「もう…いいんだ…おまえなら…オレを分かってくれるって…知れたんだ…十分だろ…」
そっと目を閉じた230の目から、赤い涙がこぼれた。
「230ー!!」
なぁ、人って、いつになれば過ちがなくなるんだろうな?
いつまでたっても、騙しあって、殺しあってる。
もうそれが良いことなのか悪いことなのかもわからない。
でも、俺は思うんだ。
ちょっとした間違いだって笑い合える楽しい世の中がすぐそこに来てるんじゃないかって。
コーラとペプシの違いを気にしなくたって、きっとうまくやっていけるさ。
かつて俺の塗装の師匠だった230と、生意気なガキだったあのときの俺達のように。
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