本当は寂しいんだぜ・・・
「おいおい!もっと丁寧に扱えって!」
ドスンと置いた10キロプレートが鬼の形相でいつものように言った。
「大体てめぇはたいした筋肉量もねぇくせに重量重量ってばかみてぇに…てめぇみてぇなワックにはカロリーだけのマックがお似合いだぜ、このFUCK野郎が、そもそもな…」
俺は耳に特大のタコができるまで聞かされ続けるこいつのフリースタイルに適当な相槌をうち、サイドレイズをする。
アイスバーグスリムの小説から飛び出してきたかのようにクチが悪いこいつは、他のダンベルプレート達とうまく馴染めず、一個でいることが多い。
「おい聞いてんのか?言い返せなくて悔しいんだろ?ボンボクラなんとか言えよこのボンクラ、詰め込むお前の耳に小倉」
本当は寂しいんだ…。
塗装屋の俺にはそう聞こえる。
だから今日だって、ガミガミうるさいこいつを優しくもって、もう動かない肩の仕上げにフロントレイズしてやるのさ。
「おい!やめろよ!おろせ!そんなふうに扱うんじゃねぇ!俺は泣く子も黙るクレイジー10kgだぞ!」 そんなふうに駄々をこねるこいつに、笑顔がチラついた。
筋肉が金切声をあげ始めたところで、俺のトレーニングは終了。
プロテインを飲むため部屋を出ようとすると、クレイジー10kgがこう言った。
「雑な扱いしやがって、でもまぁ、また付き合ってやってもいいぜ、くそ野郎」
あぁ、何度でも付き合ってもらうぜ。
そして俺はこいつと共におさらばするのさ、
触っただけで折れるスカスカな枝みたいな体とはな。
なぁ、悪い話しじゃないだろ?
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