I am TOMi

日常の出来事を、誇張しまくって和訳感を絡めたテイストで日記にしていきます。

ちゃんと確定申告してるぜ

5年前のあの日、俺は心をなくした。
勝てもしない戦いに挑んだ代償はでかすぎたんだ。
俺のすべてをここに記す。

真実が、いつかは慰めになると信じて・・・。

 

 

 

「冗談じゃねぇ!なにを言ってんた!この金は全部俺のものだ!」

その日ポストに入っていた書類を見て、俺は叫んだ。

 

「一体どこの誰だか知らねぇが俺の金をコソコソつけ狙いやがって・・・ただじゃおかねぇ!」
踏みにじった書類を満タンのゴミ箱に突っ込んだ。

 

思えば、ダチにそそのかされ、確定申告ってやつに手を出してからどうも調子が悪い。
まるで毎日のように届く書類に、俺はいちいちブチギレていた。

 

「くそ!どうなってんだこりゃ・・・今度は5万支払えだと?ふざけやがって!」
腰ベルトに忍ばせておいたハンドスプレーガンを紙切れにぶっぱなそうとしたその時、
俺のスマホが鳴った。

 

「はい、もしもし、ファック野郎」

電話の向こうで、低い声が笑った。


「くっくっく、今頃お前がクレイジーになってると思って電話してみたが、案の定か?」

「誰だ?俺になんの用だ?なんで俺がブチギレてるって知ってやがる?」

「まぁそう焦るなよ、メン。お前もE.K.Zの名前くらい知ってるだろ?」

「くそが、名前どころか、お前らがいかに腑抜けかよーく知ってるぜ」

 

俺は内心、焦っていた。
E.K.Z・・・巷では江戸川北税務署と呼ばれていて、事業主狩りでのし上がったヤバイやつらだ。
この冷徹非道な連中に対して、俺は一体なにをしちまったんだ?

 

「くっくっく、相変わらず威勢だけはいいな。
元気なうちに墓場まで突っ走ってみるか?走り出す前にひとつ確認なんだが・・・
お前、俺の島でビジネスをしてねぇか?」

 

・・・バレるはずがない。
俺が東京中の一軒家を塗り荒そうと、こいつの耳にはいるわけがない。

 

「そ・・・そんなことあるわけねぇだろ」

「くっくっく、察したようだが、全部手遅れだよ。
良いダチを持てて幸せ者だな?確定申告のことまで気にかけてくれるなんてな。」

 

俺は全身のちからが抜け、膝から崩れ落ちた。
床に這いつくばりあえぎながら、フラッシュバックした。

 

申告したほうがいいよ家買うんだろ?
申告しないとあとあとドカっときて大変だぞ?
確定申告だけちゃんとやっとけばあとは色々大丈夫だよ!

 

セリフを吐く度、あいつはにやけていた。
とっくのとうに、俺は裏切られていた。
いや、裏切られていたんじゃない、はじめから騙すつもりだった。
騙すつもりだったんだ・・・。

 

「おい、どうした?まさか泣いてるのか?こりゃちょうどいい!
今、お前の涙をふくためにティッシュを送ったところだ!」

 

その時、インターホンが鳴った。

「トミイエさーん、郵便でーす」

俺は力をふりしぼり、玄関を開けた。

「手紙が一通ですね、だいじょうぶですか?顔色がわるいですよ?」

そういって差し出されたのはティッシュではなく、区民税8万円の納付書だった。
追い打ちのおかげで、限界を超えた俺の涙はとまった。

 

「なぁ、あんたが一体なにものなのかまだよくわからないけど、こんなゲーム、とっとと終わらせてくれよ。お願いだ、もう楽にしてくれ、頼む」

「damn!なにを寝ぼけてる?さっさと起きろよ、ドアを開けて、その納付書を持ってコンビニのレジにもっていけ。お前ができることはただひとつ、俺たちの財布を肥やすことだけだ。」

 

この瞬間にわかっちまったんだ。
俺がどれだけ間抜けでちっぽけな人間かって。
個人事業主として、自由に仕事をしていると、俺は錯覚していた。
現実はただの税金支払い機で、国が暗証番号を入力すれば、壊れるまで金を出し続けなければならない。

 

E.K.Zは、義務という正義の弾丸を俺のこめかみに打ち込み、笑った。

 

 

 

-5年後-

 

「やばいやばい!ちこくちこくー!」
寝坊した私はパンをくわえ、小走りで会社にむかっていた。

 

今日の仕事内容を考えながらT字路を左に曲がろうとしたとき、右から走ってきた男とぶつかった。

 

衝撃でドスンと尻餅をついた私は悲鳴をもらしたが、相手も同じようだ。

「いったーい、大丈夫ですか!?」

男のもっていた大量の書類が散らばってしまったので、一緒に集めようとしたが、男が言った。

「それに触れるな。」

「え・・・」

 

私は拾いかけた書類に目をやった。

・・・14万円の納付書?

 

「くそ、よこせ!」

掴んでいた書類を取られ、落ちていた書類も集め始めた。

 

「damn!なに見てやがる!さっさといけ!くそビャッチやろうが!」

「これ・・・全部納付書?」

「だからなんだ!てめぇもそんな目で俺をみやがる!もう行け、行ってくれよ!」

 

男は泣き出し、持っていた紙袋で私を追い払った。
紙袋を乱暴にぶん回したおかげで男は転び、中身がすべて散らばった。

 

全部、税金の納付書だった。

 

倒れて泣いてる男の周りを納付書がまるで桜吹雪のように舞い、日本の縮図を見ているようだった。

「大丈夫ですか?顔色悪いですよ?きゃ!顔色じゃなくて顔が悪い!」

 

それは、現実的であり、幻想的でもあったが、男にとってはどっちでもよかった。

今月の税金を収めることさえできれば、それでよかった。

 

 

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